江崎美枝子・喜多見ポンポコ会議 著

2008/10

 
『公共事業と市民参加――東京外郭環状道路のPIを検証する』

学芸出版社(定価2,100円、2007.6)


 本書の内容は、ややかための題名から受ける印象と異なり、道路計画の検討に参加し活動を続けた地域市民の日誌に近い。2000年に東京・外郭環状道路の建設計画を知ってからの、著者たちのさまざまな活動のきっかけや調査内容、行政への問い合わせとそれに対する返答、協議会の議論で感じた印象や周りの反応などが、時系列に沿ってどちらかといえば淡々と書かれている。
 広域インフラ建設計画における市民参加というと、ついすぐに反対運動かと思ってしまうが、著者たちの活動の動機は、「事実が知りたい」という単純で純粋なものだ。「自分の足で歩き、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分で調べてみる必要がある……そう確信した」(p.38)
 著者たちは、だれもが抱くだろう素朴な疑問を解き明かそうと自ら粘り強く行動する。外環の完成によって都心を通る自動車は減るのか増えるのか、平行する一般道路周辺の環境は本当によくなるのか、入手できるだけの情報・データから検証を試みる。その結果次第では、建設に懐疑的な自分たちの主張を曲げざるを得なくなる恐れも顧みない。
  ところが、地元で行われる巨大事業についての情報を、影響を受ける市民が十分に手に入れることができない。PI(パブリック・インボルブメント)によって意思決定への参加がある程度保障されていても、状況を判断するに足る正確な調査結果やそのために必要なデータが出てこない。行政に問い合わせると、「そのような資料は見つからない」「保存期間を過ぎているので存在しない」「国と協議してからでないと公開してよいかわからない」……。それでいて建設のプロセスは着々と進んでいく。
   著者たちの活動は本来、事実を明らかにする立場の専門家が取るべき行動をそのままなぞっているようでもある。それだけに著者が専門家に向ける目は、行政に対して以上に厳しい。「学識経験者だから事実を語っているとは限らない。……思い込みで語ることがある。見落としもあるし、沿線地域の環境などは特にわかっていない」(p.157)「既に多くの研究があるのになぜ、私達がここまで時間と労力を割いて調べ上げなければならなかったのか、不思議でならない」(p.164)「冷静に事実を伝える人であってほしい」(p.168)一応専門家と名の付く職につく自分も、本書によって自戒を促される。
(大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授
・瀬田史彦)

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