根本祐二 著

2011/11

 
『朽ちるインフラ――忍び寄るもうひとつの危機』
日本経済新聞出版社(定価2,000円+税 2011.05)

 東日本大震災による首都圏での公共施設崩壊による事故は記憶に新しい。わが国の公共施設やインフラの多くが老朽化し、いつ崩壊してもおかしくないという現実にもかかわらず、国民の危機感は薄い。危機感は現状を改革する行動力につながる。本書は、客観的で具体的な数値を提示し、読む者の危機感を煽る。孫子の代に負担を残さないためにわれわれが知るべき事実ととるべき具体的方策まで、多くの示唆が得られる書である。

○橋は落ちる!
  「橋は落ちない」と日本人のわれわれはなんとなく信じている。著者はこれを「科学的根拠に乏しい思い込み」と切り捨てる。現に米国では1930年代にグリーン・ニューディール政策の一環として多数つくられた橋が複数落ちている。著者は実際に日本国内の多くの橋が崩落の危険に晒されているという事実を、具体例を挙げながら指摘する。
  1950〜60年代の第2次世界大戦からの復興そして高度経済成長期に急速に整備された日本の社会資本はまさに今、更新の時期を迎えている。今後、大量の検査人員を投入しない限り、危険が飛躍的に高まると警鐘を鳴らす。

○更新投資の把握が課題
  社会資本は耐用年数が有限の固定資産であり、ある年限が来れば物理的に使えなくなる。使い続けたければ建て替えや補修が必要だ。これにお金をかけることを更新投資という。著者の試算では今後50年で330兆円(年平均8.1兆円)。従来のやり方で賄える額ではない。多くの自治体で「選択と集中」が求められるが、自分の地域の更新投資がいくらかかるのかさえ把握していない。しかし希望も見える。狛江市、藤沢市、秦野市、埼玉県宮代町の先駆事例の存在である。
  これら自治体の試行錯誤を背景に、整備年度や整備面積・延長と標準単価のデータがあれば、おおよその更新投資が推計できるソフトが作成されており、多くの自治体による活用が期待される。

 

○バランスシート改革のための処方箋と基盤の整備
  更新投資を賄うにはバランスシートの改革が必要である。公民館の場合、利用1件あたり300円の収入に対して費用が1万円、図書館は1回の貸し出しにかかる費用が1,000円、廃校になった学校を保存する費用は周辺の世帯当たり150万円、など具体的な数字を挙げることで、俄然現実味が出てくる。更新投資の抑制と調達を可能にするメニューとして、公共施設の多機能化、アセット・マネジメント、長寿命化、広域連携、不動産の有効活用、規律ある資金調達、PPPなどを紹介している。
  しかしこれらの処方箋を効果あるものとするには、自治体現場の改革・改善が不可欠である。公共施設マネジメント統括部署の設置やトップマネジメントの必要性、部局横断的な協議と決定の仕組み、第三者委員会による客観的なチェック、徹底した情報公開、民間提案の活用。そしてこれらをうまく組み合わせていくことが重要であると説く。

(特定非営利活動法人環境市民・風岡宗人)

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