飯田哲也 著

2012/06

 
『エネルギー政策のイノベ−ション――原発の終わり、これからの社会』
学芸出版社(定価1,600円+税、2011. 12)

 大飯原子力発電所の再稼働や東京電力の「国有化」をめぐり国の持分をどうするかなど原子力発電にかかる問題について、連日、新聞の一面を賑わしている。
  著者である飯田哲也氏は、NPO法人環境エネルギー研究所所長として、国をはじめとする様々な審議会委員にも就き、これからのエネルギーのあり方について、積極的な発言をされている。本書は、原子力発電に頼らない新しいエネルギー政策にむけた提言である。
  いっときのピ−ク時の電力を確保するため、原子力発電に頼るのでなく、需要側管理(DSM)として、「節電発電所」という、大口から家庭まで、それぞれが現実的な需要抑制をすることで電力を生み出すことや、自然エネルギーへの転換として、ドイツやアメリカなど先進的な取り組みを水力、太陽光、バイオマスなどそれぞれ具体の例も引きながら著述している。そして日本が、このような転換が図れていない最大の理由は、地域独占の電力会社に現れている産官学一体となった、古い体質、閉鎖性にあるという。
  今、世界は、農業、産業、ITに次ぐ第4の革命に向かっている。原子力を中心とした大規模集中型から、自然エネルギー中心の小規模地域分散型へ転換を図っており、これは、年間30%にも上る成長市場でもある。日本も、この古い体質から脱却し、国民に広く情報を公開しながら、民主的な政策決定プロセスの中で早期に転換すべきという主張はとても分かりやすい。

 

  この中で、唯一、気になったのが、「地方自治体に対する政策知の欠如」という指摘である。これまでも公害問題をはじめとする環境対策は住民の声を反映する中で、先導的に地方自治体が展開してきた側面が大きいと考える。むしろ様々なしがらみの中で、硬直的であったのは国のほうではないだろうか。
  先日、著者は新たに設置された大阪府市統合本部、エネルギー戦略会議の委員に就任された。大阪は、脱原発依存に向けた新たなエネルギー戦略に取り組もうとしており、今後、著者の意見も入れながら、大胆な政策を進めることだろう。先日の会議においても早速、関西電力に対し、電力需給や収支の詳細な見通しなど30項目に及ぶ情報開示を求めると報道されていた。
  今後、著者の経験がこのような地方自治体の取り組みに反映されるとともに、その認識も大きく変わることを期待したい。

(大阪市立大学大学院創造都市研究科・
植田剛司)

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