2015年3月号
通巻606号

特集 個性が光る「小さな町村」の地域戦略

2014年度は地方創生に議論が沸き立つ年となった。人口減少による地方消滅危機に警鐘を鳴らした日本創成会議のレポートを受け、国はまち・ひと・しごと創生本部を2014年9月に設置、対策に乗り出した。早くも12月末には、2060年を視野に入れた長期ビジョンと、当面5カ年の総合戦略が発表された。
長期ビジョンには二つの大目標があり、2060年に1億人程度の人口を確保することと、2050年代に実質GDP成長率1.5〜2%程度を維持することが掲げられた。これに基づいて、地方では当面、大きく三つの課題に取り組むことが求められている。一つは雇用創出、二つ目は地方へ人の流れをつくること、三つ目は結婚・出産・子育てを支援する仕組みづくりである。自治体にはそれぞれの業績目標値を設定することも課された。今年度から来年度にかけて、全国の多くの自治体が計画づくりに追われることになる。
とはいえ、こうした政策目標、まして数値目標が先行すると、本質を見失ってしまいがちになる。成熟社会においてパイが縮小するなかで、個人の豊かさ、幸福、社会の厚生をどう最大化していくのか、当然、答えも方法もひとつではない。そのことの本質について地域をベースにしっかり議論していくことが求められる。逆に目的が明確になりすぎると、手段や方法論に捉われ、大きな理念が埋没してしまう。
人口減少時代、人びとの内面の変化を捉える感覚は、政策形成のうえでも重要になる。とくに若い世代のローカル志向、田園回帰は、これまでの価値観とは大きく異なったものだ。個人の潜在的な社会的欲求を発現させ、それと政策のベクトルが合えば、社会そのものを変える力にもなる。
そうした日本人の価値観の転換を捉えた地域の取り組みが、このところ存在感を高めている。島根県海士町、徳島県神山町などがトップランナーで知られるが、過疎化が全国より先んじた地域で懸命な取り組みが目立ってきたことは興味深い。とくに小さな町村では「農」や「食」による産業振興に加え、福祉や環境面でも独自策を展開しているところが少なくない。
国が音頭をとる地域政策は、国と地方の権限や、補助金・交付金の流れなど制度論に捉われがちになるが、むしろ市町村の地域経営の手腕こそが問われる時代にあるのではないか。人口減少下で国の地域政策そのものが多様化し、複眼的になってきた今こそ、市町村は柔軟な発想で他にはない独自の政策を展開していく気構えが求められる。
そこで、本特集では個性ある取り組みを先導してきた首長や職員の方々に、地域の取り組み、成果を論じていただいた。また、全国町村会が2014年9月に提出した報告書「都市・農村共生社会の創造〜田園回帰の時代を迎えて〜」についても解説いただいた。小さな町村のこれまでの地道な取り組みから、地方創生の本質がみえてくるのではないだろうか。町村発の地域づくりに注目したい。

『地域開発』編集委員・大阪市立大学
松永 桂子

特集にあたって
松永 桂子  
インタビュー:藤原忠彦に聞く
力強い町村であり続けるために
藤原 忠彦 全国町村会 会長/長野県川上村長
松永 桂子 『地域開発』編集委員 大阪市立大学准教授
都市・農村共生社会を切り拓く―自治体の新たな役割―
石田 直裕 全国町村会 事務総長
小さな町村が放つ魅力
松本 克夫 ジャーナリスト
個性的な町村の地域経営
松永 桂子 大阪市立大学創造都市研究科 准教授
[町村長、職員による地域戦略報告]
T 環境・景観
ふつうを個性にする「まち育て」
杉本 博文 福井県池田町長
自分たちの住む地域に誇りと自信を持って生きる
大久保 憲一 長野県根羽村長
疎開の町をテーマにしたまちづくり
寺谷 誠一郎 鳥取県智頭町長
棚田は21 世紀の社交場
前川 芳徳 長崎県波佐見町 商工振興課長
U 食
りんごへのこだわりが新しい未来を広げる「日本一のりんごの里づくり」を目指して
館岡 一郎 青森県板柳町長
「食」を通じた独自の地域戦略
寺本 英仁 島根県邑南町商工観光課 観光係長
地域振興と情報政策との連環
戸田 善規 兵庫県多可町長
地域ブランド品の開発
池村 美博 北海道白糠町教育委員会学校給食センター 所長
矢掛町ブランド「認定」事業について
妹尾 一正 岡山県矢掛町 農林建設課 主幹
花と水とパインの村の地域戦略
山城 定雄 元東村役場農林水産課長
V 観光・交流
ニセコ町の地域戦略
片山 健也 北海道ニセコ町長
小さくてもキラリと光る観光地域づくりを目指して
宮川 舞 宮城県南三陸町産業振興課観光振興係長
大子町の地域戦略 地域づくりにおける移住・定住の促進
皆川 敦史 茨城県大子町まちづくり課地域振興係 係長
大自然との共生で暮らしを創る
辻  一幸 山梨県早川町長
道の駅 舞ロードIC千代田の産直活動
佐々木 直彦 広島県北広島町教育委員会生涯学習課文化振興室長
文化を守るということ―小さな美術館の奮闘−
齋藤 道夫 島根県津和野町立安野光雅美術館
◎寄稿
再生可能エネルギーを地域社会の持続的発展に活用する
─ヴィルポーツリード村の挑戦
的場 信敬 龍谷大学政策学部准教授
◎連載(第8回)現場で活躍できる自治体職員の条件−出る杭を伸ばすには
“総合行政的テーマ”にどう対応するか
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
バックナンバー(2014年1月〜2015年3月)
編集部  
Library、セミナー案内
表4 生きる−釜石市 故郷・釜石にUターンして思ったこと
柏崎 未来 一般社団法人三陸ひとつなぎ自然学校

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