2015年10・11月号
通巻610号

10・11月号 特集
地域のレジリエンス

東日本大震災から4年あまりが経過した今年3月に、仙台で第3回国連防災世界会議が開催され、防災・減災に関する様々な議論が交わされた。今後、首都直下地震や南海トラフ大地震などの巨大地震の発生が懸念されている中、近時、レジリエンス(Resilience)という言葉が目につくようになった。
レジリエンスを、適切な日本語に訳することは難しいが、稲の穂のような「しなやかさと強さ」を兼ね備えた「復元力」、「弾力性」と表現することができる。日本では、防災や事業継続に関する様々な取り組みが進められている。その1つとして事業継続計画(BCP)については、その策定率が大企業に限れば、「策定済み」53.6%と初めて5割を超えた。これに「策定中」(19.9%)を加えると7割強となっている(平成26年7月内閣府調査)。一方で、その実効性が必ずしも担保されていないという指摘もあり、多くの解決すべき課題に直面している。それに対する突破口の1つとして、企業や自治体などの組織内にとどまることのない、地域や社会全体のレジリエンスに関する議論を深めることが重要である。
このレジリエンスを具現化しようとする国家レベルの取り組みが国土強靱化計画であると言われている。この中ではハード対策とソフト対策の適切な組み合わせ、自律・分散・協調型の国土の形成、PDCAサイクルによるマネジメントがあげられている。それを実現するためにBCP、脆弱性の評価、連携訓練など比較的新しい危機管理の要素が取り入れられている。
一方で、日本には既に多くのレジリエンスの要素があると考えられる。古くは「沈下橋(増水時に川に沈んでしまうように設計された橋)」、「命山(高潮から逃れるための塚)」、などに代表される先人たちの知恵が思い出される。加えて、近時においても東日本大震災の中での整然とした復旧活動や、幅広いステークホルダーとの関係性を重視している企業行動があげられる。 新しいレジリエンスと、われわれが従来から持っているレジリエンスをあわせることで、しなやかなさと強靱さをもつ社会の実現に一歩近づくことができないであろうか。企業には、社会性と経済性の両立すなわち効率性を保ちつつも社会の一員として、地域のレジリエンスを強める役割を果たすことが期待される。自治体は、地域と連携することでリソースの限界をカバーし、より実効的な対策を立案することで、様々なタイプのリスクに備えることができる。日本的な特徴を活かしながらも、新しい危機管理を取り入れることで、レジリエンスを持った社会の実現が可能であることを世界に向けても発信していく必要があろう。
本特集のなかでは世界レベルでの取り組み、自治体、地域での対応、そして工業団地といった企業同士の関係性が強い地域での取り組みなど幅広い見地からレジリエンスについて考察を行った。これら1つ1つの切り口が今後、有用で具体的な対策を進める突破口となることが期待される。

立教大学
野田 健太郎

特集にあたって
野田 健太郎 立教大学教授
国際防災枠組の進展と国際経済界でのリスクへの関心
西川 智 一般財団法人日本地域開発センター総括研究理事、国連国際防災戦略諮問委員
地域復興と防災〜東日本大震災の対応を踏まえて〜
丸谷 浩明 東北大学災害科学国際研究所教授
地域のレジリエンスに対する評価と活用
野田 健太郎 立教大学教授
「京都BCP」の取組
畑中 健司 京都府府民生活部防災・原子力安全課防災計画担当課長
大学と地域の連携による地域継続マネジメント
磯打 千雅子 香川大学危機管理研究センター特命准教授
コミュニティ・レベルのレジリエンス
鍵屋 一 跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授
地域の防災拠点としての活動
吉田 浩一 株式会社ローソンコンプライアンス・リスク統括室兼情報セキュリティ統括室室長
首都圏における帰宅困難者対策−新宿駅西口周辺地域を中心に−
高橋 孝一 損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社取締役
タイにおける大水害後の大規模工業団地運営会社の防災対応と進展
野中 志郎 日鉄住金物産株式会社産機・インフラ企画部参事
臨海部の地域レジリエンスの構築
組織間連携に基づく地域型BCMを活用した企業のレジリエンス強化
渡辺 研司 名古屋工業大学教授
◎連載(第4回)−モーターシティ、トリノの最新事情報告
ポスト産業都市に芽生えるスモールビジネス
松永 桂子 大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授
◎センター事業<地域政策見学会報告>
パークシティ大崎(北品川五丁目第1地区市街地再開発事業)
岩本 千樹 (一財)日本地域開発センター 前総括研究理事
◎地域紹介
ロングライドで「サザンセト」発信(室津大島半島地域)
編集部  
◎連載(第12 回)現場で活躍できる自治体職員とは−出る杭を伸ばすには
エンブレム問題の反省点
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
裏表紙 生きる−福島県三島町
岩渕 良太 NPO 法人会津みしま自然エネルギー研究会理事長

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