2017年6・7月号
通巻620号

特集 位置情報から未来社会を構想する

1980年代インターネットが社会に登場した時、これが社会の神経網の働きをし、世界中で起こっている現象を知ることができると言われました。その例としてコーヒーサーバーのリアル動画が流れ、それに世界中からコメントがつくと言ったニュースが流れました。場所に関係なくコミュニケーションができることから、サテライトオフイスが広がると言われ、市民参加に使う実験が行われていました。しかしこの段階では、私たちのスタイルを変化させるまでは至りませんでした。
この時代は、情報の一つである位置情報は住所などの間接位置参照情報として記録されていました。このような形式の情報は、大量になれば理解し活用する事が大変でしょう。GISはこのような道具として登場しましたが、当初は背景に利用する紙地図に描かれた情報を取り込む作業が膨大で、システムの何十倍も要する高価な道具として扱われてしまいました。
その状況を一変させたのがGPSでした。GPSは、装置の位置情報をリアルタイムに把握し即時に作戦行動の判断に使うという軍事技術として登場しましたが、1990年代半ばに民間に解放されました。わが国では車のナビゲーションに使う研究会が直ぐに立ち上がり世界をリードする商品が出現します。 2000年以降高価だったGPSチップも量産化され、安価で何にでも取り付けられるようになりました。その代表としてスマートフォンに組み込まれ、位置情報を使ったサービスが一挙に広がります。スマートフォンに組み込まれたGPS情報を基に、その情報を活かすさまざまな地図情報サービスが搭載され、誰もが目的地を探し道順を調べることができるようになりました。
これで「どこで、何が」を知り活用する社会が初めて出現する事になりました。人間に例えると「体が痛い」から「手が痛い、足が痛い」と認識する段階に進んだわけです。次の段階は人間に例えると手を刺した蚊を追い払ったり叩いたりする動作と結びつくことです。最も近い事例は、自動運転の自動車、農林業分野・土木作業分野で行われている大型機械ではないかと思います。また、ドローンも空飛ぶロボットとして大いに期待できる分野だろうと思っています。
このように位置情報は社会の神経に手足の感覚を加えてくれるものとして重要な役割を持つ事が認知されます。その先には何年かかるかわかりませんが、大量の位置情報を処理するAIを活用し、その手足全体を調和して動くロボットを連動する仕組みが完成されていく事が夢想できます。このような姿を思い浮かべながら特集を読んで頂ければ企画したものとして望外の喜びです。

ジーリサーチ代表取締役
今井 修

特集にあたって
今井 修 ジーリサーチ代表取締役
位置情報を活かす社会に向けて
村上 広史 国土地理院長
対談:位置情報から未来社会を構想する
柴崎 亮介 東京大学空間情報科学研究センター教授
今井 修 ジーリサーチ代表取締役
位置情報社会に向けた動き
今井 修 ジーリサーチ代表取締役
ビッグデータで描く地域の現在と未来の姿
秋山 祐樹 東京大学空間情報科学研究センター助教
災害対応で活用する、いざというときのガイド役(ドローン)
井上 公 国立研究開発法人防災科学技術研究所 主幹研究員
地理空間情報を活用した人、モノ、空間の安全と新たなビジネス
松永 昌浩 セコム株式会社 IS研究所
ドローンを活用した営農支援・圃場管理を目指して
金子 正美 酪農学園大学農食環境学群・環境共生学類教授
シビックテック、オープンデータが民間活力を促す
関 治之 一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事
市民・行政の協働による地域の将来像の共有化(My City Forecast)
関本 義秀 東京大学生産技術研究所准教授
市民参加で地域課題の改善を〜ちばレポ(現代版どぶ板作戦)
松島 隆一 千葉市市民局市民自治推進部広報広聴課長
会津若松市における住民基本台帳と空間情報の連携から始まる新たな挑戦
伊藤 文徳 会津若松市市民部市民課
目黒 純 会津若松市健康福祉部国保年金課
しあわせの村ナビゲーションアプリ「だれでもナビ」の取り組み
佃 孝司 公益財団法人こうべ市民福祉振興協会企画運営本部経営企画課企画広報係長
総合計画の空間化〜これからの国土利用・管理に対応した市町村国土利用計画
国土交通省国土政策局総合計画課国土管理企画室
地域情報「見える化」のすすめ〜GISを活用した地域戦略立案に向けて
湯原 麻子 国土交通省国土政策局総合計画課国土管理企画室課長補佐
裏表紙 生きる−山梨県北杜市
西川 悠希 増冨BASE

トップページへ戻る