2018年春号
通巻625号

特集 地域の活力を生む大学と地域・自治体の連携〜求められる大学の方向〜

人口減少社会に向けて、地方では、各種情報技術で補完しつつも、大学の再編は避けられない状況になっている。まず、大学と地域・自治体の連携については、近年、国の支援を受けて、さまざまな形で協定を結び、大学の活力発揮による地域の活性化が図られている。大学は、昔の象牙の塔から、地域に開かれた「知の拠点」、「人材供給源」に変わり、大学力を発揮しはじめたと言える。
本号では、まず地域課題に対応する大学の取組について、地域・自治体にとって、重要と思われる健康福祉系(東北福祉大学等)、IT系(金沢工業大学等)を中心に、産業系(イノベーション、六次産業)で成果があがっている大学、大学連携のある自治体を紹介した。特に、健康福祉をテーマに、長野県松本市および松本大学の場合は、福祉のニーズに基づく人材育成と地域支援がうまく連携している好例と言えよう。しかし、全国的には、まだまだ十分とは言えない状況にある(金子氏)。
2016年11月、全国知事会において緊急決議がなされた。東京圏への人口集中が止まらないことへの危機感から、これを是正するために、緊急抜本対策を国に求めた。それは、1)地方大学の振興、2)担い手の育成・確保、3)大学の東京一極集中の是正、4)立法措置であった。その後、地方創生のきっかけをつくられた増田氏が座長代理を務める「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」において、議論を重ね、方向づけをされ、対策が進んでいる(増田氏)。
振り返れば、大学立地は、大都市への集中を抑制するために、1959年の工場等制限法(首都圏、後に近畿圏も)において、大都市圏の一定地域内で大学の新増設等が制限されてきた。1976年から、高等教育の計画的整備が図られるようになった(青野氏)。1977年からは、三全総(定住構想)により、大学等高等教育施設の適正配置の各種施策が推進されてきた。その後、地域側のニーズと共に、私立大学及び公私協力・公設民営や公立大学が増加してきたが、ここで、公立大学のあり方が問題となっている(高橋氏)。2004年には、計画から、いわゆる「大学設立自由化」に転換した。21C 国土のグランドデザインにおける国際都市東京の役割強化と並行し、工場等制限法は役割を終えたとして2002年に廃止された。それを契機に、都心への大学回帰が怒涛の勢いで増えてきた。こうした状況が続き、地方の大学は悲鳴を上げる状態となり、地方創生の一環として、知事会は声を上げるに至ったと言えよう。
人材育成のあり方も議論となっている(富野、小野、定松氏)。他に、夜間学生、留学生確保、高等教育圏という観点からの提案を掲載した。
改めて、地域活性化に、大学は欠くべからざるものであることがわかるが、最後に現状の総括を行った(本間氏)。なお、2020年以降大学の再編が始まるが追ってその方針を取り上げたい。大学・地域・自治体の連携はこれからが真価を発揮する時代である。

一般財団法人日本地域開発センター
北川 泰三

特集にあたって
北川 泰三 一般財団法人日本地域開発センター主任研究員
●総論
地方大学と地域の活性化について
増田 寛也 東京大学公共政策大学院客員教授
地域・大学の相互参加
金子 元久 筑波大学大学研究センター特命教授
少子化の中で増える公立大学−意義とジレンマ
高橋 寛人 横浜市立大学教授
●地域課題に対応する大学の取組み
地域福祉と新たな雇用を生み出す事業への挑戦
大谷 哲夫 東北福祉大学学長
有機材料を活かしたイノベーション
小山 清人 山形大学学長
大学の特色を活かした取り組み〜長柄町版大学連携型CCRC(生涯活躍のまち)
田島 翔太 千葉大学特任助教
時代の変革期に求められる地域に根差した高等教育機関の在り方
福田 崇之 金沢工業大学産学連携局次長
松本大学の地域の「健康づくり」への取組
住吉 廣行 松本大学学長
知識循環型社会とデジタルアーカイブ〜デジタルアーカイブを活用して地域解決の課題を〜
久世 均 岐阜女子大学文化創造学部教授
ビッグデータをいかすデータサイエンティストの育成-滋賀大学データサイエンス学部の挑戦
竹村 彰通 滋賀大学データサイエンス学部長
地域創生と六次産業化推進に向けた島根大学の特色ある取り組み
服部 泰直 島根大学長
●大学と連携する自治体の取組み
自治体による大学との協働、学園都市づくりへの取組(北九州学術研究都市)
北橋 健治 北九州市長
自治体による大学との協働、高等教育政策への取組・期待〜健康寿命延伸都市・松本
菅谷 昭 松本市長
●人材育成とネットワーク
地域が必要とする公立大学化への挑戦
富野 暉一郎 福知山公立大学副学長
大正大学の地域創生人財養成に向けての挑戦と課題-地域構想研究所の設立を通して考える-
柏木 正博 大正大学地域構想研究所副所長
地方におけるグローバル人材の育成と輩出の方策
小野 博 グローバル人材育成教育学会会長
地域公共政策士資格制度を通じた地域公共人材の育成
定松 功 一般財団法人地域公共人材開発機構事務局次長
●今後の地方大学の振興方策と地方創生
本間 政雄 大学マネジメント研究会会長
■コラム
夜間こそが学生のニーズ
山中 憲行 前橋工科大学助教
日越教育交流から見えてくる日本の大学と地域の姿-より積極策が必要-
堀江 学 一般財団法人国際教育交流フォーラム理事長
高等教育こそ道州制のフロントへ
青野 友太郎 樺n域科学研究会高等教育情報センター代表取締役
◎連載(第6回)地域自治組織は、今!!
課題解決型への進化を後押しする
斎藤 主税 特定非営利活動法人都岐沙羅パートナーズセンター理事・事務局長
◎連載(第2回)
地方移住をめぐる現状と課題2
嵩 和雄 NPOふるさと回帰支援センター副事務局長
◎センター事業
地域開発研究懇談会「日本の土地バブルとバブル崩壊後の不動産の変容」を開催
研究グループ
バックナンバー、Library
編集部
裏表紙 生きる-南丹市美山町
井上 普弘 美山ふるさと

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