2019年秋号
通巻631号

特集 「大阪」復活のシナリオ

大阪が活力を取り戻しつつある。東京一極集中の影で、長く低迷していた大阪・関西だが、インバウンドの活況、2025年大阪・関西万博が開催決定するなど、大都市圏のプレゼンスを高めている。「大阪都構想」は賛否が分かれるところだが、政治面で独創性を生み、市民・府民が関心を高めていることは間違いない。
昨年、大阪への訪日客数は1141万人と過去最高を記録した。うち、中国、韓国、台湾、香港のアジア4地域の総数は888万人にのぼり、東京への旅行客数を上回るまでになった。これには、アジア発着のLCC便が関西国際空港を起点に増便したことが大きい。関空は1994年の開港後、長く低迷したが、今や国際便は過去最高の週1500便以上が発着し、うちアジア便が7割を占める。
この追い風を受け止めつつ、急速な変化にどう対応していくか。旅行消費が増えたことにより、大阪経済が活力を取り戻すきっかけになったことは間違いない。市内はホテルの建設ラッシュに沸く。ここ3年ほどで街の姿は大きく変わり、ミナミの難波・心斎橋には外国人があふれ、大阪ならではの雑多性と相まって、日本ではないどこかアジアの大都市にいる錯覚に陥るほどである。
大阪では橋下徹氏が府知事・市長に就任して以来、新しい手法の都市経営が次々に導入されてきた。行政部局の連携も加速し、大阪府・大阪市は「副首都ビジョン」を策定し、「民都」など東京とは異なる個性を打ち出したメガ・リージョン戦略を立てている。府と市の二重行政解消の形は行政部局にとどまらず、大学にもメスを切り込むことになり、市立大学・府立大学が2022年に統合され、大坂城近くに森之宮キャンパスが新設される。万博会場となる夢島への統合型リゾート(IR)誘致活動も活発化し、地下鉄延伸に要する投資マネー の呼び水として期待されている。天王寺公園や大坂城公園はPark-PFIを活用し、民間活力を生かして収益力のある場に変った。ひと頃前の公園の姿を知る者としては隔世の感がある。いずれも国への規制緩和の要求と並行して、大阪の独自色を打ち立ててきた事業といえる。
また、堺市は百舌鳥・古市古墳群が7月に世界文化遺産登録が決定し、10月には関西を代表する芸術文化活動の一大拠点「フェニーチェ堺」がオープンした。ソフトパワーとして文化芸術の持つ意義はますます高まっており、成熟都市のあり方を示す上でも重要な拠点となりうる。
他方、関西は独特の都市格を有する大阪、京都、神戸、奈良などが一体的に都市圏を形成してきた。これまでは関西の府県が一体となる連携の機会は少なかったが、ようやく、2025年大阪・関西万博や2021年開催のワールドマスターズゲームズなどのビッグイベントによって、分かりやすい形での広域連携がおこなわれる。
新たなフェイズを迎える大阪。二重行政の解消から始まった大阪の改革だが、インバウンドの増加もあいまって、民間の社会投資も加速し、かつての姿とは大きく変わりつつある。2025年万博を中期ターゲットに新時代の副首都圏をどう形成していくか、計画やビッグプロジェクトだけでなく、地域コミュニティなど草の根の動きも見据えながら考えたい。

「地域開発」誌編集委員・大阪市立大学准教授
松永 桂子

特集にあたって
松永 桂子

「地域開発」誌編集委員・大阪市立大学大学院 准教授

大阪の都市再生戦略と大阪・関西の将来像
嘉名 光市 大阪市立大学大学院 教授
副首都・大阪の確立・発展に向けた取り組み
橋本 賢二 大阪府・大阪市 副首都推進局 課長代理
いのち輝く未来社会のデザイン2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の具体化と展望
橋爪 紳也 大阪府特別顧問/大阪市特別顧問、大阪府立大学研究推進機構 特別教授、大阪府立大学観光産業戦略研究所所長
大阪・関西万博と大学・研究
荒川 哲男 大阪市立大学 学長
大阪・関西万博とその後に向けた持続的な地域振興への取り組み
中野 亮一 大阪商工会議所 理事・地域振興部長
インタビュー「大阪観光の目指すところ」
溝畑  宏 公益財団法人大阪観光局 理事長・元観光庁長官
新たな歴史文化都市・堺を目指して
梅原 利之 公益財団法人堺市文化振興財団理事長、四国旅客鉄道株式会社 顧問
狭間 惠三子 前堺市副市長、立命館大学衣笠総合研究機構 教授
ワールドマスターズゲームズ2021 関西の成功に向けて
木下 博夫 公益財団法人ワールドマスターズゲームズ2021関西組織委員会 総長
関西広域連合の広域計画の推進状況について
中村 茂 関西広域連合 本部事務局 計画課長
関西活性化における新聞社の役割
戸田 博子 読売新聞大阪本社 広報宣伝部 部長
訪日外国人旅行者の意向調査にみる大阪・関西の可能性
田口 学 日本政策投資銀行 関西支店 企画調査課 課長
大阪市で始まった中小企業と行政の協働の取り組み
本多 哲夫 大阪市立大学大学院 教授
◎連載(第6回)
老いる郊外住宅地〜「まち」再生に向けた地域空間マネジメント〜
長瀬 光市 慶應義塾大学大学院特任教授
◯エッセイ/ニューヨーク主夫通信 その6
〜ファンドレイジングの風景〜
飯島 克如 一般財団法人日本地域開発センター客員研究員
裏表紙 生きる〜加賀市
移住先に選んだ、カオスな田舎
山田 淳史 鰍ヤなの森、加賀市定住促進協議会

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