2021年冬号
通巻636号

特集 まちづくり・国土保全をすすめるための所有者不明土地の利用をめぐって

日本は人口減少、高齢化、そして縮小社会の進展に伴い、所有者不明の土地が全国各地で増加し、問題が顕在化してきている。所有者不明の土地は、経済価値の少なくなってきた林地で不在地主化が各地で増え、農地では管理されない耕作放棄地が広がってきた。住宅地でも空き地、空き家が 所有者不明化してきている。さらに分譲マンショ ンでも同様の事態となってきている。国土管理やまちづくりをすすめる上で、阻害要因となってきている。また、東日本大震災の地震・津波による 大被害で土地の形状も変わり、所有者不明の土地が、復興の妨げにもなってしまった。こうした場所が今後も現れる可能性は否定できない。さらに、今後10数年以内には団塊の世代が終末期を迎え、大量の相続問題が発生することで、所有者不明の土地問題に拍車がかかることも予想される。
このようなことから、所有者不明の土地への 対策が10年前から官民あげて取り組まれてきた。民間では、増田寛也氏を座長とする所有者不明土地問題研究会による提言『眠れる土地を使える土地に「土地活用革命」』が 2017年12月に出された。国交省・土地政策分科会では2015年から検討が始まり、その後、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(特措法)が、2018 年 6月に成立し、具体的な取り組みも始まった。2020年3月には、改正土地基本法が成立した。
その基本方針が出され、目に見える動きがでてきたところを捉え、まちづくり・国土保全をすす めるために、所有者不明の土地(含.空き家、区 分所有マンション)がどうなっているのか、土地所有権への取り扱いがどうなっているのか、所有者不明となっている土地をどのように利用可能な状態に変えていくのかを念頭に特集を組みました。
まず、1)所有者不明の土地に対する法制化の経緯と現状を山野目氏が解説。すでに法の道筋ができ、土地の相続登記の義務化と所有者不明土地管理制度が機能していけば、世代交代期間をもって改善されていくという指摘。2)所有者不明土地法体系では、北村氏から、個別法の改正後、特措法、そして土地基本法改正により、「利用」から「利用と管理」へ転換したことを評価。今後は民法、不動産登記法、新法が課題と指摘。3)宮ア氏から、30 年ぶりの土地基本法改正により、政策の方向性が確たるものとなり、国の施策として持続可能に。基本方針により、モデル事業等の実施で具体的な成果に注目。4)土地基本法改正にとどまらず、震災復興の経験から、五十嵐氏は、個別的土地所有が前提ではない発想や方策が求められており、「現代総有」がその可能性の1つと指摘。5)当面やるべきこととして、野口氏からは、土地利用計画の活用や地区土地利用計画制度の設定が有用と提案。
後半では、まちづくりの対象(リゾートマンシ ョン、外資臨海マンション、区分所有マンション、日本版ランドバンク、震災復興地区)ごとに、その現状と課題を取り上げた。
農地、林地とともに、平野氏からは、国土保全に関しては、所有者不明土地の増加が、外資によ る土地購入・所有が国防上の問題も発生することから一定の規制が必要で、この問題は今国会でも取り上げられる。

 

インタビュー:土地所有制度の再考/所有者不明土地対策を考える
山野目 章夫

早稲田大学大学院法務研究科 教授、国土審議会土地政策分科会長・法制審議会 部会長
(聞き手  野口 和雄 都市プランナー)

所有者不明土地対策法制の課題と到達点
北村 喜宣

上智大学法学部教授

土地基本法の法改正によって何が変わったのか、その経過と改正点
宮ア 一徳 参議院内閣委員会調査室長
震災復興の中から  個別的土地所有から現代総有へ
五十嵐 敬喜 法政大学名誉教授
利用の放置・放棄時代における土地利用制度の展開
野口 和雄 都市プランナー
流動化できない不動産、外国人所有不動産にみるこれからの不動産問題
牧野 知弘 オラガ総研株式会社
区分所有建物における放置・放棄物件等の発生とその実務的対処
日置 雅晴 弁護士
引き取り手のない土地を誰がどのように受け取るべきか~日本版ランドバンクの可能性~
石田 光曠 司法書士総合研究所主任研究員・司法書士
災害復興からの土地所有問題とまちづくり
福川 裕一 千葉大学名誉教授
土地の過少利用時代における農地の所有・利用の在り方
武本 俊彦 新潟食料農業大学教授
林地における土地所有の現状と課題および展望
寺尾  仁 新潟大学人文社会科学系(工学部)准教授
外資の土地所有の課題と対応策――次世代に未来の主導権を残すために
平野 秀樹 姫路大学特任教授
◎連載/韓国を読む その1
韓国の国民生活とデジタル化
江藤 幸治 (一社)アジア未来ラボ顧問、韓国情勢観察家
裏表紙 生きる~長野県辰野町
「トビチ商店街」というまちの未来を
赤羽 孝太 一般社団法人○と編集社代表理事

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