2022年冬号
通巻640号

特集 気候変動から脱炭素への動向と自治体・若者

昨年11月COP26が開催され、脱炭素への取組を世界中で加速させることとなった(松下)。それにすばやく対応したトヨタEV戦略発表会は印象的だった。本号では、気候変動から脱炭素の現在、そして今後の方向と課題について、また自治体が目指す方向、若者人材について取上げる。
IPCCが1988年に設立されて以降、温室効果ガスを如何に削減するかの模索となった。1997年COP 3が京都で開催され、国民の関心が高まった。そこで気候ネットワークが設立され、多彩な活動を広げてきている(田浦)1)。京都議定書は、厳しい内容のため、先進国でなかなか批准されず、2005年に発効。国内では、1998年に、地球温暖化対策推進法が公布され、温暖化対策が進み始めた(飯田市)。温暖化対策には、緩和策(温室効果ガスの削減)と適応策(気候変動の回避・軽減)がある。異常気象により地域から気候非常事態宣言もでてきた。2018年には、適応策として気候変動適応法が制定され、各種対策が始まった。今後は、両立策や転換策の重要性が指摘されている(白井)。
京都議定書(2020年目標)後の枠組みを、2015年COP21で、パリ協定として翌年発効され、世界のすべての国を対象とした取組が始まった。
2018年、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんは、Friday For Future(未来のための金曜日、FFF)というデモをはじめた。この抗議は、瞬く間に世界中に広がった。若者には、大きな刺激となった。翌年9月には、グローバル気候マーチが世界中で開催された。日本でも多くの若者が参加した。FFFの運動は、大学生(小林)はもちろんのこと、トゥーンベリさんと同じ高校生(伊藤、渡邉・草本)にも大きな影響を与え、若者の政策への積極的行動もはじまった(高橋)。
2021年8月、IPCC第6次評価報告書で、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と述べており、世界中で今や対策は待ったなしの段階となった。昨年のCOP26の成果を評価し、地域の脱炭素化の促進と国のゼロエミッションを展開することが経済成長に繋がると力説され(松下)、またカーボンプライシングでも経済成長すると示した(諸富)。
2050年にカーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギーの潜在力は高く(木村)、とりわけ洋上風力の拡大は必須。太陽光拡大ではメガソーラーも地域との調和が必要であるが、営農型太陽光もある(山下)。ポテンシャルのある地熱も理解を広げたい(江原)。企業としては、洋上風力、カーボンフリー火力、水素利用、アンモニア発電等であるが、重要なのは需要サイドの視点である(橘川)。すでに地方企業の脱炭素ビジネスも広がってきている(藤井)。
具現化のためには、自治体の意欲とエネルギー自立の取組が必要(諸富)。東日本大震災を契機に、政策転換を図った小田原市の地域交通、地域環境権を定めた飯田市、クリーンエネルギーの地産地消を進める葛巻町のように地域独自の取組が重要である。さらには、暮らし方を創造する西栗倉村に注目したい。今後は、大学等での再エネ実装化を経験する若者に期待したい(原科)。
1)「地域開発」1999年3月、「市民による地球温暖化防止戦略」

 

特集にあたって
北川 泰三

一般財団法人日本地域開発センター

日本の脱炭素への課題:COP26から地域発の取り組みまで
松下 和夫

京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー

世界の再エネ最新動向と国内の課題
木村 啓二 公益財団法人自然エネルギー財団上級研究員
京都議定書からパリ協定に、脱炭素社会の実現に向けた市民の取り組み
田浦 健朗 特定非営利活動法人気候ネットワーク事務局長
脱炭素成長とカーボンプライシング、再エネの地域づくり
諸富  徹 京都大学大学院経済学研究科/地球環境学堂教授
カーボンニュートラルへの施策とその「落とし穴」
橘川 武郎 国際大学大学院国際経営学研究科教授
持続可能な社会を目指す気候変動への緩和策・適応策:地域先導の可能性
白井 信雄 山陽学園大学地域マネジメント学部教授
クリーンエネルギーの町・葛巻の歩んできた取組と脱炭素へ
村上 唯 葛巻町農林環境エネルギー課環境エネルギー室
SDGs未来都市・小田原の取組〜脱炭素地域交通モデルについて〜
山口 一哉 小田原市環境部エネルギー政策推進課課長
飯田市のSDGs「環境文化都市」を見据えたゼロカーボンの取組
鈴木 義光 飯田市市民協働環境部環境モデル都市推進課
百年の森林構想から「生きるを楽しむ」へ
上山 隆浩 西粟倉村地方創生特任参事
地域での再エネ拡大のための課題と可能性〜メガソーラー、営農型太陽光発電、洋上風力発電
山下 紀明 特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所 主任研究員
九州地域の脱炭素ビジネスの特徴と課題
藤井 学 公益財団団法人九州経済調査協会調査研究部次長
地熱発電の最近の事情と課題
江原 幸雄 NPO地熱情報研究所代表、九州大学名誉教授
若者の政策決定プロセスへの主体的参画を目指して
高橋 真也 持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム(JYPS)事務局長
世界を変える運動を目指して
小林 誠道 Fridays For Future Osaka
高校生の想いから動き出す持続可能な地域づくり
渡邉 宏太、草本 朋子 Hakuba SDGs Lab
探究活動の実践
伊藤 亮 浜松開誠館中学校高等学校グローバルコースSDGs推進課課長
大学から脱炭素化の推進を−自然エネルギー大学リーグ−
原科 幸彦 千葉商科大学学長
◎連載/韓国を読む その5
韓国の国民生活とデジタル化
江藤 幸治 (一社)アジア未来ラボ顧問、韓国情勢観察家
裏表紙 生きる〜大洗町
平間 一輝 大洗カオス、大洗観光おもてなし推進協議会観光コンシェルジュ

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