矢作弘 著
 
末松誠 写真

2004/10
 
産業遺産とまちづくり
学芸出版社(定価 1,890円)

 グローバル競争に追い立てられるように産業構造の転換が急ピッチに進展しいろいろな産業分野でその役割を終える建物や産業施設が生まれている。これまではそのまま破棄されてしまうことが多かったが最近は経済的、文化的価値が再評価され、近代産業遺産として残されるものが増えている。文化財保護行政が前進して登録文化財制度がスタートしたことも近代産業遺産の保存、活用には追い風となっている。歴史的にも、文化的にも重要文化財に指定されるほどの価値はないB級の建造物などでも気軽に文化財として登録できる制度で、保存と同時にまちづくりなどに活用することを奨励していることも、最近の地域おこし運動と共鳴し赤煉瓦造りの工場などを残すことにつながっている。  リユース、リサイクル、リニューアルと有限の資源をできる限り使い続けようという時代風潮になっていることも近代産業遺産の保存には都合のよい時代となっている。
 本書で取り上げているのは美唄・夕張(炭鉱)、小坂(鉱山)、宇都宮(大谷石)、足利・桐生(織物)、金沢(織物)、瀬戸・名古屋(陶磁器)、舞鶴(軍施設)、高知(路面電車)、門司・下関(近代建築群)などである。  変り種としては金沢の茶屋町の町名復活を紹介している。茶屋町も北陸経済を支えてきた産業でありその町名は「暖簾」である、という理解の切り口である。また、土佐の高知をヨーロッパ生まれの路面電車が快走しているが、生まれ育ったところとは違う町で「第2の命」を燃やす電車たち、ということで産業遺産の動態保存の例として紹介されている。
 明治村などに移築され、もっぱら見学施設として残されるのは静態保存である。しかしそれはミイラ保存である。建物も人間と同じように最初の役割を終えたあとでも新しい仕事を得て現実の経済社会に生かされるときに新たな輝きを増すものであり、動態保存である。
 
 石造り倉庫をしゃれたレストランに改造したりスポーツ施設や、起業のためのSOHO(スモール・オフィス・ホーム・オフィス)に造り替えたりして再利用することである。本書ではそうした動態保存された近代産業遺産を中心に取り上げている。  近代産業遺産を使った地域振興の成功譚、苦労話が書かれておりまちおこしに関わるひとびとに参考となるが、ちょっと変わった「都市観光」「産業観光」を企画するときの参考文献としても役立つ。冒頭のカラー写真特集のほかに中ページにも旅情を誘う多くの写真が掲載されている。


内容
産業遺産探訪 美唄・夕張/青函連絡船/小坂鉱山/大谷/足利・桐生/金沢/瀬戸・名古屋/舞鶴/土佐電気鉄道/門司・下関
活用に向けて



書影イメージ

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