千葉光行(市川市長) 著
2005/12
 
1%の向こうに見えるまちづくり
 ――市川市発!市民が選ぶ市民活動団体支援制度
ぎょうせい(定価1,600円、2005.10)

 地方分権の真価は、多様で、有用な条例がどれだけ各地で作られるかによって測られると評者は考えている。本書は、いま全国で最も注目されている条例の一つである「納税者が選択する市民活動団体支援に関する条例」――ちょっと長いので「1%支援条例」と呼ぶことにしよう――を、その提案者である市川市の千葉光行市長がまとめたもので、1%支援条例とは何か、1年目に当たる今年度の実施状況、さらに今後の発展に向けての課題が、網羅的に、しかも分かりやすく述べられている。自治体関係者はもちろん、研究者にとっても見逃せない新たな時代へと導く好著である。
 1%支援条例は、ともかく市川市にしかないので、まだ十分にその内容が知れ渡っていないかもしれない。NPOなど市民組織が、市内で行おうとする非営利の社会貢献に役立つ活動に対して、個人市民税の納税者が自分の納税額(事業実施の1年前の納税額)の1%を市を通じて交付することができるのがこの条例による1%支援制度である。初年に当たる今年度は、市の納税者の2.5%に当たる5500人が応募し、1300万円ほどが団体に対する支援や同じく条例によって設置された団体を特定しない市民活動への支援基金として使われることになった。初年としてはまずまずのスタートではないかと評者は思う。前例のない制度なのであるから、「この制度を大きく成長させるか、芽のうちに枯らしてしまうのかも、市民や団体による育て方にかかっている」(134頁)のである。
 行政関係者にとっては、本書は市民活動を活性化させるために行政に何ができるかを考える上で、大きなヒントとなる。市民活動に関心のある一般の人が読めば、市民活動にこれだけ関心を寄せる市長がいることに勇気づけられるはずである。
 
著者が述べるように、こうした制度が全国に広がることが市川市の中でも活用する市民が増えることに結びつくといえるのであろうが、そのためには、「制度を利用する人が納税者自身であることの認証をいかに市民の負担が少ない形で行うのか」、「高齢者、所得の低い人、専業主婦など納税していない人の声をどう反映するのか」、「申請額や支援額の上限」、「複数の団体を支援することができないか」、「活動団体による利益誘導など起こりえる不正の防止」、「制度や市民活動の周知などPRの効果的な推進」、「企画、税、法務、市民など部局横断的な連携の推進」(第6章)等種々の課題を解決していくことが重要と指摘している。
 著者も触れているように、この制度はNHKが何年か前に紹介したハンガリーの制度(所得税の1%をNPOなどの活動支援に回せるパーセント制度)にヒントを得ている。しかし、地方自治体にベースを置いた日本独自の制度として芽を出すとは番組担当者も予想しなかったのではないか。立法と行政に卓越した手腕を持った首長の目に触れたことで番組は望外の成果を上げたことになる。
(東京大学・大西隆)

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