オリバー・W・ポーター 著
東洋大学PPP研究センター 訳/根本祐二・サム田渕 監修

2009/10

 
『自治体を民間が運営する都市
――米国サンディ・スプリングスの衝撃』
時事通信社(定価2,625円、2009.9)

  ついに政権交代が起きた。今回の総選挙は、小泉構造改革を逆転させる“大きな政府”とそれを突き進める“小さな政府”の政策選択の選挙ではなかった。“行き過ぎた市場主義の是正”を掲げた自民党と、“徹底したムダづかいの排除”を掲げた民主党の政策は同じであった。それは、“市場と政府の適切なバランス”である。市場メカニズムの有用性を認識しつつも、その限界を認識して政府のリーダーシップを認めることである。
今や、“大きな政府”と“小さな政府”の単純なイデオロギー論争をしている国はない。米国も英国もフランスも90年代以降バランス政策にシフトし、政権交代後もその政策を転換するどころかさらに強化している。日本にもこの道しかない。新政権には大いに期待したいが、政府の役割を強調しすぎるあまり、しがらみやばらまきによる“大きな政府”が行われることのないよう、行く末を注視したい。
 そうしたなか、是非注目していただきたい書籍を訳出した。わずか4人の自治体職員が人口10万人の都市を運営している米国サンディ・スプリングス市の実録である。すべての公共サービスは1社の民間企業CH2M HILL OMI社に委ねられている。完全民営化ではない。同市の政策の意思決定は、普通の市と同様公選された市長及び市議会が行っている。民間企業はその決定を受けて効果的に遂行する役割を負っている。究極の市場と政府の役割分担が成り立っていることこそが、まさに、今読者にお奨めする理由である。
   本書は、同市に新しいモデルの導入を提案し実現させた当事者であるオリバー・W・ポーター氏の著書2冊の日本語訳を軸に日本への応用編を新たに書き下ろしたものである。州政府や郡議会の非協力的姿勢、マスコミからの批判、安心できる民間企業の選定の難しさ、市民の安心そして雇用問題など、多くの問題に対して、ポーター氏を代表とする住民たちが続けた地道な努力が克明に描かれている。
 新しいモデルの採用に市民自身が主体的に関わり責任を持った判断を下したこと、PPPを単なる効率化ではなくサービスの質の向上という観点で捉えるべきこと、サービスの一つ一つを検証しそれにあった方法を柔軟に選んでいくことなど、国情を超えて普遍性を持つPPPの本質が感じられる。多くの地域関係者が本書を手に取り、閉塞感のある地域問題解決のための一助としていただければ幸いである。
(根本祐二)

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