アンソニー・フリント 著/渡邉泰彦 訳

2012/01

 
『エネルギーのはなし――熱力学からスマートグリッドまで』
朝倉書店(定価2,400円+税 2011.08)

 日本都市計画学会の機関誌『都市計画』2010年12月号の特集は、「エネルギーが変える都市の未来」であった。スマートグリッド(次世代送電網)やスマートシティ、木質バイオマスなどが、低炭素都市づくりや地域活性化とも関連づけられ注目されていた。そのような中で発生した東日本大震災と原発事故は、エネルギー問題への一般の関心を急激に高めることとなった。原発推進の是非、再生エネルギーの導入促進など今後のエネルギー政策のあり方が議論され、計画停電、節電によるライフスタイルの見直しが求められた。菅前首相の退陣と連動してしまったために、「脱原発」論が政争絡みで過熱してしまった感があるが、本来この問題は、長期的な視点と、科学的根拠に基づく冷静な議論が必要であろう。
 本書は、なるべく数式を使わずに、エネルギーの考え方をわかりやすく理解できるように配慮されている。サンダーバード1号の話に始まり、熱力学の基本、燃料、高度エネルギー利用技術、エネルギー需要と出力の変化、これからのエネルギー、といった章立てで構成される。
 読者にとって関心があるのは、やはり自然エネルギーについて説明される第5章、スマートグリッドについて説明される第6章であろう。
 風力発電は大型原発40基分の発電力が見込めると言われるが、プロペラ型風力発電は風速が半分になると理論的には出力が8分の1になる。
 効率20%の太陽光発電パネルが5km2の面積で最大出力は大型原発1基分となるが、朝夕には大きな出力は期待できない。ヒートポンプシステムは冬場は効率が悪いが夏場は電気ヒーターよりも効率がよい。船舶は発電所になり、電気自動車は蓄電池としても使用できる。

 

 季節や時間帯で変動するエネルギーの需要に対応し、一長一短あるさまざまな電力供給施設を情報技術で結びつけ、「下町で、夕食時に醤油や塩が足りなくなったら隣家で借りる」ように、地域社会で電力を融通し合うのがスマートグリッドであるという。需要調整には、電力会社だけでなくユーザー側も責任を持つべきであり、スマートグリッドによる適切な地域内での節電が、かつての下町コミュニティを復活させるかもしれない、という著者の言葉は興味深い。
 数式をまったく使わずに、エネルギーについて説明するのは無理なのであろう。「エントロピー」「カルノーサイクル」などの専門用語が 出てくるので、物理を学んだ経験がないと、一読して内容を理解するのは難しいかもしれない。
 しかし、こうした説明が説得力を生むのである。国民一人ひとりがエネルギー問題を真剣に考えなければならない今こそ、さまざまな情報に惑わされない知識を、われわれは持つ必要がある。

(東京大学大学院助教・片山健介)

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