松井克浩 著

2012/11

 
『震災・復興の社会学――2つの「中越」から「東日本」へ』
リベルタ出版(定価2200円+税、2011.11)

 近年、わが国では地震、津波、豪雪・豪雨などの大規模な自然災害に加え、原子力発電所の大規模な事故が発生し、地域社会に甚大な被害を及ぼしている。各地域で繰り返される災害からの復興過程をくらしの復興の立場から分析し、経験と教訓を伝えていくことが、今後起こり得る自然災害の被害を減少させ、速やかな復興を成し遂げる要諦だと考えられる。
 本書は、東日本大震災を念頭に置きながらも、2004年の中越地震、2007年の中越沖地震と短期間に2度の大地震に見舞われた新潟県において、どのような過程を経てくらしの復興を成し遂げたのかを、「人と人とのつながり」という視点を基軸としながら、アンケート調査とヒアリング調査を主とした事例研究を丹念に掘り下げていくことで明らかにしようと試みる野心作である。6章から構成されるが、各々違った問題意識によってアプローチされている。
 第1章は、中山間地域の集落(山古志村)の復興過程をテーマとしている。現地再建を選択した集落と集団移転を選択した集落を取り上げているが、どのような思いと過程によってかかる選択をしたのかが丹念に描かれている。第2章は、長岡市を中心に、女性の視点をテーマに活動する2つの市民団体を事例としている。災害時に適切な対応が図れたコミュニティでは女性リーダーが重要な役割を果たしていた事実を浮き彫りにする。第3章は、中越沖地震後に、@中越地震の経験は生かされたのか、A復興状況と地域のつながりの関係はどうかを探るため実施されたアンケート調査結果が紹介されている。第4章は、柏崎市を事例として、@地震災害を契機に地縁型コミュニティと災害ボランティアとの連携、Aテーマ型・ネットワーク型市民団体の台頭と活性化の状況を解き明かしていく。

 

第5章は、新潟県の各自治体が、これまでの地震災害による被災体験を活かして、東日本大震災と原発事故による避難者の受け入れ状況を取り上げている。そして、終章では、「つながり」を軸に本書を総括している。
  私は阪神・淡路大震災の生活復興に行政職員として携わった経験を持つが、本書で記載されている記述の多くは阪神・淡路大震災でも経験されている。もちろん都市部と中山間地域といった地域特性の違いや地域コミュニティの形成状況などは異なるものの、くらしの復興過程におけるつながりの重要性、女性の視点の必要性、災害の経験の継承の取り組みなどいくつもの類似点が見出される。
 本書を一読して、復興の目標はつながりを通したくらしの復興であり、復興過程とは人びとが暮らしていく基盤を作る地域づくりそのものであることが強く示唆された。行政、NPO、地域団体など地域づくりにかかわる多くの方に一読をお勧めしたい。

(大阪市立大学大学院客員研究員・田代洋久)

書影イメージ

記事内容、写真等の無断転載・無断利用は、固くお断りいたします。
Copyright (c) Webmaster of Japan Center for Area Development Research. All rights reserved.

2012年11号 目次へ戻る